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税法解説

外貨建て保険の一部解約に注意!税務署から「お尋ね」が届く可能性について

2026.01.30

 1月も間もなく終わり、今年も確定申告が近づいてまいりました。当事務所もますます熱気を帯びてきています。

 ところで皆さん、「外貨建て保険」には加入されていますでしょうか?
昨今の急速な円安進行により、過去に加入した米ドル建てや豪ドル建ての一時払保険などで、大きな為替差益(含み益)が発生しているケースが見受けられます。
これに伴い、「契約そのものは残しつつ、利益の一部を確定したい」というニーズが高まり、「一部解約(減額)」を選択する契約者様が増えています。

 しかし、この手続きに関して、保険会社の説明と税務上の実態に乖離が生じ、実務で混乱が見られましたので、少しご紹介します。

1:国税庁の取扱い「A案」と「B案」とは?

 保険を一部解約(減額)した際に受け取る「精算金」の税金計算には、大きく2つの考え方があります。

A案(優先控除方式)
  受け取った一時金(収入)から、「その金額に達するまでの既払込保険料(必要経費)」を優先的に控除する考え方です。

・特徴: 元本が戻ってきたとみなされ、課税が先送りされます。
(多くの場合、この時点では税金がかかりません)

・根拠: 国税庁の質疑応答事例では、このA案による計算が認められています。

B案(按分方式)
 解約した部分に対応する保険料を案分計算し、必要経費とする考え方です。
 必要経費 = 既払込保険料 ×(減額部分の保険金額 / 減額前の保険金額)
・特徴: 一部解約の時点で「利益」が確定し、所得が発生します。

 税務の一般的な原則に照らせばB案が自然ですが、保険の一部解約においてはA案を適用するという特殊な取扱いが存在します。

2:注意点「一部解約」と「解約」の違い

 ここで重要なのが、A案(課税の繰り延べ)が適用されるのは、あくまで「一部解約(減額)」の場合に限られるという点です。

・適用されるケース:一部解約(減額)
 契約自体は継続し、保険金額の一部を減らして精算金を受け取る場合。
契約している保険金額を減らすことです。
一部解約(減額)した部分に解約返戻金があれば受け取ることができ、保障も残ります。

・適用されないケース:解約
 将来に向かって保険契約を終了させることで契約は消滅し、以降の保障はなくなります。
例えば、同じ内容の保険を3口(契約番号が3つ存在)契約していて、そのうちの1口を「解約」するのは、「一部解約」ではないため、A案は認められません。
利益はそのまま一時所得として課税対象となります。

自身の「解約」がどちらに該当するのかを正しく認識する必要があります。

3. 外貨建て保険における「疑問点」

 国税庁の文書でA案が認められているのなら、何が問題なのでしょうか?
最大の問題は、国税庁の事例が「外貨建てを想定しているのか」が不明であり、外貨建て保険の「為替差益部分」まで掛金を控除できるかが明記されていない点にあります。

少し専門的になりますが、次の設定で考えてみましょう。
(例)
・契約時掛金:15,000ドル(1ドル100円)
・一部解約時:保険を半分に減額(1ドル150円)
・解約一時金(収入):150万円(10,000ドル×150円)

この場合、必要経費となる「A案の掛金」をどう計算するかで結果が異なります。

・【円基準で計算した場合】
  掛金は150万円(15,000ドル×100円)まで控除できるため、所得は0円
掛金の残額は0円。
【ドル基準で計算した場合】
 掛金は10,000ドル(10,000ドル×100円)までの控除となるため、差額の50万円が利益。掛金の残額は50万円(5,000ドル×100円)。

同じA案でも、円基準とドル基準のどちらで計算するかで結果が変わってしまうのです。
皆さんはどちらの計算が正しいと思いますか?

4. 外貨建て保険における「2つの不確実性」

 外貨建ての場合、運用の成果だけでなく「為替変動による利益」が含まれます。(※為替差益は原則、雑所得ですが、この状況では一時所得となります。)
 この為替差益部分までA案で課税を先送りすることが、質疑応答事例の趣旨に沿っているのか、そして、他に法令上の明確な規定や取扱いがみあたらないのが、「1つ目の不確実性」です。

 国税庁の質疑応答事例は昭和53年の通達を根拠にした取扱いです。
当時は現在のような外貨建て保険の為替差益などは想定されておらず、これを勘案してよいかは疑問が残ります。
また、外貨建て保険の誕生後、これほど大きな為替差益が発生する円安トレンドもありませんでしたので、現実的な問題として顕在化していなかったと推測されます。


 正直、適否の判断は難しいと思うのですが、現在のところ複数の保険会社は、この文書を根拠に「税金がかからない」と判断して、契約者に対して説明しているようです。

 そして、「2つ目不確実性」として、保険会社から発行される「支払通知書」の申告計算において、「B案で発行される」ケースが一部で見受けられたことが挙げられます。

5. 保険会社の対応に潜む「矛盾」

この不明確さにより、実務上の大きな矛盾を引き起こしたケースが実際にありました。

1.契約者への説明(口頭)
 保険会社は国税庁のA案を根拠にして、さらに円基準で必要経費を計算。
「システム上の書類では利益が出ていることになっていますが、元本の範囲内の一部解約なので税金はかかりません」と口頭で説明する。

2.書類の発行(システム)
 しかし、保険会社から届く「支払通知書」や、税務署へ提出される「支払調書」は、B案(按分方式)で計算・記載されている。(これは例外的なA案計算に保険会社のシステムが対応しきれていないためと推測されますが、現在は解消されている可能性もあります。)

3.結果として何が起きるか?
  契約者は「税金がかからない」と聞いて申告をしません。
一方、税務署には「利益が出ている」という支払調書が届きます。
その結果、税務署から「お尋ね」の文書が届き、契約者は修正申告を迫られる……というトラブルが発生し得るのです。

 また、残りの保険金の受取の時に発行される「支払通知書」についても、注意しなければいけません。
システムが対応していない以上、将来の受取時も誤った通知書である可能性が大いに考えられます。

最後に

 現時点では国税庁は明確な回答を示しているとはいえず、納税者の判断に委ねている状態といえます。
そのため、A案・B案や円基準・ドル基準など、納税者の皆様は悩みながら様々な方法で申告をされていることと思われます。

 しかし、「保険会社が大丈夫と言ったから」という理由だけで安心するのは危険です。
保険会社側には、システムが未対応であったとしても、「目先の税負担がない」というメリットを強調して、他の保険への転換を促したいという営業戦略もあるかもしれません。
そのこと自体は否定しませんが、結果として契約者が税務署とトラブルになる事態だけは避けたいものです。

トラブルを防ぐために、できれば保険会社にその根拠を確認してみましょう。
一番確実なのは、口頭の説明だけでなく「税金がかからないことが計算・明記された申告用書類」を保険会社から手に入れることです。

そして、仮に今回は税金がかからなかったとしても、それは「課税を先送りしているだけ」です。
将来的には、先送りした税金も上乗せしてかかる可能性があることも、しっかりと意識しておく必要があります。

 最終的な申告納税の責任は、やはり契約者ご本人にあります。
特に外貨建て保険の為替差益については、今後、国税庁から新たな解釈が示されることも考えられます。
多額の一部解約を行う際は、契約内容や書類を十分に検討し、慎重に対応されることをお勧めします。

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