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落語「時そば」に学ぶ、経営や節税対策の注意点

2026.02.13

隣の芝生は青く見えるもので、人から聞いたり本やSNSで見たりする他人の成功事例や「裏ワザ」は、どうしても魅力的に映ります。「あの節税対策ならウチでも使える」「この最新手法を導入すれば効率化できる」と、つい期待してしまうものです。

しかし、その背景や理屈を無視して形だけを真似ると、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。古典落語の名作『時そば』に登場する、愛すべき間抜け役・与太郎のように。

今回はこの滑稽な失敗談を入り口に、節税や経営策を安易に採用することの危うさを考えてみましょう。

「当たり屋」での成功と、「外れ屋」での失敗

『時そば』の前半は、実に鮮やかです。ある男が屋台のそば屋を呼び止めます。屋号を見ると、的の真ん中に矢が当たっている絵が描いてある。「こいつは縁起がいい、当たり屋だ」と男は喜びます。 男は店を褒めちぎります。「割り箸を使っているのが清潔でいい」「器がいいから食が進む」「そばが細くて粋だ」「ちくわが厚くて本物だ」と、次々に主人をいい気分にさせます。そして勘定の段、一から八まで数えたところで「今何時(なんどき)でい」と尋ね、九つと答えさせて十から数え直し、見事に一文をごまかしてみせました。

この一部始終を見ていた与太郎が、「こいつはいいことを教わった」と翌日にマネを試みます。ところが、彼がつかまえたのは「外れ屋」という屋号の、何とも冴えない屋台でした。 箸は黒ずみ、器は欠け、そばは太くて伸び切っている。昨日の「当たり屋」とは似ても似つかない惨状です。それでも与太郎は、昨日の男がやっていたからという理由だけで、無理やり世辞を並べ立てます。欠けた器を持ち上げ、伸びた麺をコシがあると言い張り、紛い物のちくわ麩をつかまされても厚切りの本物だと自分に言い聞かせて飲み込むのです。

そのそば屋はあなたにとっての「当たり屋」か

この与太郎の姿は他人事ではありません。スマホを開けば、経営者たちの輝かしい成功体験が「現代の当たり屋」として流れてきます。

たとえば、「決算前に大規模な投資をして税金を圧縮した」「最新のDXツールを導入して業務を自動化した」といった景気のいい話。これらは嘘ではなく、その会社にとっては紛れもない正解だったのでしょう。
しかし、ここで考えるべきは、「それは自社の目的に合っているか」「自社にその土台があるか」という点です。

それらの会社が成功したのは、その施策を支えるだけの潤沢な資金や、組織の土台があったからかもしれません。その前提条件を無視して、表面的な「節税効果」や「効率化」という果実だけを求めて飛びつくのは、一文の得をしたさに、自分の口には合わない不味いそばを無理して飲み込むのと同じことなのです。

たとえば、手元の現金を吐き出してまで行う「節税対策」。 資金体力のない会社が「税金を払うのが惜しい」と形だけマネればどうなるか。税金は減るかもしれませんが、銀行からの評価は下がり、いざという時に融資も受けられない。これは本当の節税ではありません。

業務ツールの導入も同じです。成功した会社がうまくいったのは、きっとツールの力だけではありません。それを使いこなせるだけの「組織」や「人材」、自分たちにあった「使い方」を準備できたからです。 その前提がないのに、「何でもできる」高額なツールだけ契約しても、現場は混乱し、使いこなせないまま毎月の利用料だけが垂れ流しになってしまいます。

これらはまさに、「コシがなく伸び切った太いそばやちくわ麩を、欠けた器や汚い箸で無理やり食べるようなもの」です。私はちくわ麩も好きですけどね。

最大の失敗は「本質」の理解が足りなかったこと

与太郎は、散々な目に遭いながらも、いよいよ本題の勘定に取り掛かります。「一、二……八、今何時でい」。 昨日の男はここで時刻を答えさせ、その隙に数を一つ飛ばして得をしました。しかし、与太郎が街に出たのは昨日よりだいぶ早い時間帯。店主の答えは「へい、四つでい」でした。

ここで彼が『時そば』の本質を理解していれば、やり方を変えるか、諦めることができたはずです。しかし、彼は1文できるのが楽しみで早く街に行ってしまい、「八まで数えてから時を聞く」という手順は頑なに守ってしまった。その結果、勘定が狂い、一文ごまかすどころか四文も余計に支払う羽目になります。 彼は「得をする」という本来の目的を見失い、「時を聞く」という動作だけをマネることに固執してしまったのです。

経営における失敗の多くも、この「思考停止の模倣」から生まれます。 他社の成功事例を見て、「ウチもあれをやろう」と飛びつく。しかし、その施策がなぜ成功したのか、自社の現状(前提条件)で同じ効果が出るのかという検証がおろそかになっていないでしょうか。 前提が違うのに、表面的な手法だけをなぞっても、期待した効果は得られません。それどころか、身の丈に合わないシステム維持費や、無駄なキャッシュアウトといった「余計な勘定」で首が回らなくなる。 自社の現状を無視した模倣は、ただの浪費に終わるのです。

その「目的」は自社に合っているか、「本質」を理解しているか

『時そば』の与太郎は、不味いそばを無理して食べ、余計なお金を払って損をしました。経営において意味も分からず他社のマネをすることも、これと同じ結果を招きます。無駄なコストを払い、本業をおろそかにし、最悪の場合は信用まで失いかねません。

他社の成功事例はあくまで参考であり、選択肢の一つに過ぎないのです。重要なのは、自社の今の状況に合わせて最適な素材を選び、フィットさせること。画面の向こうの「うまい話」に惑わされず、まずは自社の事情をしっかり直視しましょう。そうすれば、与太郎のような失敗は避けられるはずです。

もし今、他社の成功事例や最新ツールを自社にも取り入れようとしているなら、一度立ち止まってみてください。それが「自社の状況や体力に合っているか」、「本質を理解できているのか」について信頼できる専門家に意見を求めてみるのも一つの手です。

少々話が長くなってしまいましたね。 あれ、ところで今何時でい?

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